かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「よかった。なら、俺がなにを言っても適当に聞き流して。俺は、感じた通り言葉にしてるだけだから。相沢さん相手に一線引くのは無理だし、そうする気ももうなくなったから」

陸の妹だから無理だってことなんだろう。
だからって、自分は無理だから私にどうにかしろっていうのはどうなんだろう。

思わず「結構、勝手ですよね」と本音を口にすると、桐島さんは「性格悪いって言っただろ」と楽しそうに笑う。

私だって、適当に聞き流すことができず真に受けてしまうから、桐島さん側に変更を求めたのに……にこっとした笑顔で言われてしまえば、言い返すことはできなかった。

桐島さんには、太陽のような、それこそヒーローのようなオーラがある。
性格はたしかによくないかもしれない。それでも、キラキラした笑顔の向こうには、後光というには眩しすぎるほどの光が差しているのが見えるようで、それ以上の反論は諦めた。


「夕飯をご馳走になったお礼に、片付けくらいはさせて」と言いだした桐島さんは、食器洗いのあと食後のコーヒーまで入れてくれた。

キッチンに立つのは好きじゃないと言っていたのが嘘みたいに手慣れて見えたのは、きっともともと要領がいいからだろう。

直接的に関わっていないとはいえ、職場の先輩にそこまでさせてしまったことに恐縮しながら、コーヒーの入った白いカップに手を伸ばす。


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