かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


『意図的に偶然を重ねたり、強引にでもきっかけを作ろうとする気持ちはわかるけど、もっと上手くやらないとね』

気持ちがわかるのは、桐島さんも強引にでもきっかけを作ろうとしたことがあるから……? 意図的な偶然を重ねたから?

ゴクリと喉を鳴らした私に、桐島さんは観念したみたいに困った顔で微笑む。

「そんな顔しなくても、全部が全部俺の計算の上だったわけじゃないよ。ただ、陸に事前連絡を入れなかったのはわざとだけどね」

持っていたマグカップを作業台に置いた桐島さんが続ける。

「連絡を入れようとしたとき、もしも陸が約束を忘れて部屋にいなかったら、澪とふたりで話すチャンスかもしれないって考えが頭をよぎった。だから」

にこっと笑った桐島さんが、私の手の中からマグカップを抜き取り、同じように作業台に置く。
白い大理石調の作業台の上に並んだふたつのマグカップは、たぶん、色合い的にとても綺麗だったのだろうけれど、そう思う余裕がなかった。

「……だから?」
「連絡を入れないで、あとは運に任せようと思ってあの部屋の前に立った。陸がいればそれでいいし、留守だったら諦めて帰るつもりだった。ただ、澪がいてふたりきりで話せたらいいなっていう下心はあったけどね。あとは……澪も知っている通り」

あの日、桐島さんの計画通りというべきか、陸は他の約束を入れて部屋にはいなかった。そして……迎え入れた私と、ふたりの時間を過ごした。

あれが、桐島さんと私の関係のスタートだった。


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