かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


うちにあるインスタントコーヒーなのに、普段自分で入れるのとは少し味が違う気がして尋ねると、入れ方に少し工夫があるんだと教えてくれた。

なんでも、最初に少量の水で粉を溶かしてから熱湯を注ぐといいらしい。
「今度試してみますね」と言うと、桐島さんは「そうしてみて」と目を細めていた。

桐島さんの微笑みは、人をダメにするソファに似ている。
力が抜けるというか、どこまでも甘やかしてくる感じがして……正直苦手だ。胸がざわざわして落ち着かない。

「それより、相沢さん、ビーフシチュー食べられないのに作ったの?」

コーヒーの入ったカップをテーブルに置いた桐島さんに聞かれる。

「頼まれて渋々ですけどね。陸の大好物だから。それなのに陸が約束忘れて帰ってこないせいで、桐島さんが食べてくれなかったら捨てるところでした」

私との約束も桐島さんとの約束も忘れて、陸は今一体、誰との約束を果たしているんだろうと呆れる。

顔が広いのはいいことだけど、さすがに同日ブッキングどころかみっつも約束を重ねてしまうなんてどうかしてる。


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