かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「澪、あの桐島さんと密室にふたりきりで数時間過ごしたんだって? どうだった?」
週が明けた月曜日、更衣室で着替えていた私を見るなり、同期の尾野紗江子が聞いてきた。その顔からは興奮が隠せていない。
「密室って……別に普通にうちで話しただけだよ。陸が桐島さんを部屋に呼びつけてたのを忘れて飲み会に行ったりしたせいで。……っていうか、会社ではやめてよ、その話題」
どこで誰が聞いてるかわかったもんじゃない。
相手があの桐島さんである以上、気を付けないとまずい。女性行員の怒りが爆発して私のロッカーが炎上でもしたら困る。
二十畳ほどの更衣室には、三面にロッカーがずらりと並び、真ん中には長机が二台とパイプ椅子が六脚置いてある。
ちなみに女性用更衣室は他にもふた部屋あり、ここは預金部と為替部専用となっている。
室内には誰もいないにしても、たまたま廊下を通りがかった誰かに聞かれでもしたら……と警戒していると、紗江子は余裕の表情で「大丈夫だって」と言い切る。