かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「土田さん、そんなに怒ってたの?」

〝土田さん〟の名前にぴくりと反応した紗江子は、大きくため息をつき天井を仰いだ。

「怒ってたー……。もう四階のフロア全域に響き渡るんじゃないかってほどの声量で怒ってたよね。あれって立派なパワハラじゃないのってレベルだよ。今、他の社員がいる前で怒鳴り散らすってダメだし。……まぁ、元が私のミスだし訴えたりしないけど」
「そんなに? でも、そっか……。土田さん、機嫌悪いとトコトンだもんね」
「そう。今日はご機嫌ナナメだったみたいでネッチネチ怒ってたよぉ。あの人、あの声の大きさと嫌味な性格を生かす仕事についた方が絶対にいいよね。主に私のために」

土田さん、というのは営業部の男性だ。年齢は四十代半ばで、独身。
機嫌がいいときには、へらへらと軽口を叩いてきたり、どうかすると口説いてきたりするのだけれど、そうじゃないときは態度がひどい。

自分に刃向ってこないとわかっている相手に対しては、傷つけるような嫌味を平気で言うし、少しでも言い返そうものなら自分から絡んできたにも関わらず、土田さんが被害者みたいな物言いで話を広められてしまう。

私もいつだったか、飲み会の席で大きな声で言われたことがある。

『相沢さんほどの容姿なら、会社の外に男待たせても画になるからいいよなぁ? 俺には終業時間ギリッギリで仕事持ってくるくせに、自分は定時上がりでデートとか、本当神経図太いわぁ。美人はなにしても許されるなんて話、もしかして信じちゃってるの? だとしたら相当痛いよなぁ』

< 35 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop