かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


そもそも終業時間ギリギリに仕事を回してきたのは土田さんのほうで、その伝票に顧客の記入ミスがあったから返しただけだ。

それがどうしても当日中の処理をしなければならなかったものだから、土田さんはもう一度顧客の元へ走らなくてはならなくなったのだけれど、それは私のせいじゃない。

数字の改ざんなんて初歩的なものにその場で気付けなかった土田さんのミスだ。
……それに。

『入院中の祖母のお見舞いに、兄と待ち合わせて出向いただけなんですけど。その日の定時上がりは以前から部長にお願いして許可をいただいていましたし、問題はないと判断してのことだったのですが……もしかして営業部にも報告が必要でしたか? どこか不快にさせてしまうような部分があったのでしたら、今、おっしゃっていただければ』

隣のテーブルに座っていた私にまで声が届いたのだから、聞こえるように言ったんだろう。
だから私も同じように大きな声で返すと、場は静まり返り土田さんはバツが悪そうな顔をしながらビールを一気に流し込んでいた。

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