かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「でしょ? なのに、そのミスに気付かなかった私が悪い、みたいに言ってくるの! おかしくない? 知らないよ、私、土田さんの顧客だけ処理してるわけじゃないし! コード番号が合ってるかどうかなんて確認のしようがないのに!」
紗江子の大声に、周りからの視線がチラホラ集まり出す。
こんな大声で土田さんの悪口を言って大丈夫かな……と一瞬頭を過ぎったけれど、たぶん、問題ないだろうと判断する。
可哀想だけど、ここで悪口を言っていたところで、彼を庇うような人も告げ口するような人もいない。恐ろしく人望がないのは自業自得だし仕方ない。
紗江子は、天丼をかきこみながら「はー、頭くるー」と嘆き、空になったパックを勢いよくテーブルに置く。
そして、今までとは違う、キリッとした顔で「午後一で頼まれてる処理あるし、早めに戻るね」と腰を上げた。
もう気持ちの切り替えが済んだようだった。
歩きながら、途中にあるゴミ箱に天丼のゴミを捨てた紗江子が休憩スペースから出て行く。
可愛い見た目とは裏腹に、紗江子は結構パワフルだ。だからあんな、元気の塊みたいな陸とも付き合っていられるのかもしれない。
紗江子の後ろ姿を見送ってから、まだ半分ほど残っている天丼を食べ始めたところで、隣に誰かが立った。
「お疲れ様。相沢さん」
見上げた先にあった桐島さんの顔に驚く。
行内で話しかけられるのは初めてだし、金曜のことがあったからってこんな風に声をかけてくるのは想像していなかった。
にこっと綺麗な笑みを浮かべている桐島さんに、戸惑いながらも「お疲れ様です」と返す。