かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「桐島さんもお昼休憩ですか?」
「うん。相席、いい?」
「……いいですけど」

正直に言えば、よくはない。
スーツ姿の桐島さんの後ろには、こちらを見てさっそく眉をひそめる女性グループがいるし、それ以外からも視線を感じる。

桐島さんとランチをとっていたなんて噂になったら、面倒くさいことになるのは免れない。
けれど、先輩である桐島さんに、嫌です困りますなんて言えない。

桐島さんは私が断ったところで怒ったりはしないだろうけれど……人として言えない。

さっそく「ねぇ、桐島さんと相席してるのって誰?」「あ、見たことある。たしか、預金事務か為替じゃなかった?」なんて声が聞こえてきて、げんなりしながらため息をひとつ逃がした。

でもまぁ、相手が桐島さんなら騒がれるのも仕方ないか……と納得するくらいに、桐島さんは魅力的だ。

話す前は、見た目の良さと仕事ができるってことしか知らなかったから、テレビの中のアイドルが騒がれているのと同じと捉えていたけれど、金曜日に話してから印象が変わった。

包容力があって、大人で優しい。言葉の端々に若干性格の悪さを感じないこともないけれど、許容範囲だろう。

外見も中身も、企画リサーチ部門に在籍しているという肩書も、すべてにおいて高嶺の花であることは間違いないのに、それをひけらかすわけではなく気兼ねなく話せる雰囲気で接してくれる。

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