かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「陸……?」
この時間に帰ってくるってことは、飲んでいたわけではなさそうだ。時計が二十時四十分を指しているのを確認してから、腰を上げ玄関に向かった。
陸が鍵を忘れることは日常茶飯事だ。だから、たいして疑いもせず、ほぼ陸だと確信を持ってサムターンを回した。
すぐにドアを開け、それと同時に話しかける。
「陸? もしかして本当に仕事で……」
「え?」
「……え?」
「え……」
現れた人物が想像とは違い、思わず間の抜けた声がこぼれていた。
陸は友達が多い。
学生時代も、そして社会人になった今も、いつも誰かしら友達と一緒に笑っているような男だ。
だから、こんな風に陸の友達らしき人が訪ねてくることも少なくないし、普通だったらそこまで驚かないのだけれど……。
「……相沢さん?」
玄関前に立ったままの男性が、問いかける。
名字を言い当てられ、思わず「はい……そうですけど」と返すと、男性は少し考えたあと、納得がいったように表情を変えた。
そして独り言のようにつぶやく。
「ああ、なるほど。陸と兄妹か。言われてみれば名字が一緒だ」
男性は、一拍置いたあとで「あまり似てないね」と微笑む。