かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
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「え、桐島さんのお父さんって副院長なの?」
ビーフシチューを忘れたお詫びとして陸が作ったのはうどん。ザルに入ったうどんの横には、スーパーで買ってきたかき揚げの天ぷらやら海老天が並んでいた。
「海老天、好きだもんな!」と歯を見せて笑った陸には、今日のお昼が天丼だったとは言えず笑顔を返した。
料理なんて普段まったくしない陸が『今日の夜は俺がなにか作るな』なんて言い出したのは今朝。
なるべく失敗してもダメージのないものをと考えてたら、ゆでるだけのうどんに行きついた。
まさか、陸が気を利かせて天ぷらを買ってくるなんて思わなかったからかぶってしまったけれど、そこはまぁいいとして。
量の指定はするべきだった。きっと、説明書きだとかなにも見ずに乾麺ひと袋全部ゆでたんだろう。
二人分にしては多すぎるうどんを食べながら、陸が頷く。
「そう。ほら、小学校の頃、俺が入院してたとこ。大学病院だっけ。やたらデカくて綺麗で病院食もうまかったじゃん」
「〝うまかったじゃん〟って言われても、食べてたの陸だけだし。でも、病院自体は覚えてるよ。覚えてるけど……本当に? 相当大きな病院だったよ」
県内で一番大きくて有名だと言っても過言ではない大学病院。そこの副院長だなんてにわかに信じられずに箸をとめた私を見て、陸が言う。
「だからそうだって。俺、あそこに入院してる時に桐島と逢ったんだし」
陸が平然と〝桐島〟と呼び捨てにするので、一瞬引っかかる。
桐島さんはたしか二十八歳で陸よりもふたつ年上だ。
でも、陸は同じ会社に勤めているわけではないから、年齢入社時期は関係ない。ただの友達としてだから呼び捨てでいいのか……とひとり納得する。