かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「次の日に電話して謝った。桐島、約束すっぽかしたこと自体は怒ってなかったけど、おまえのことでなんか色々言って、珍しく機嫌悪そうだった」
「私のこと?」
桐島さんを怒らせるようなことしたっけ?と不安になっていると、陸が詳しく説明してくれる。
「ほら、俺が約束忘れてたりするとたまに友達が部屋来るじゃん。で、澪とふたりでこの部屋で待つ、みたいな状況になるだろ? それが危ないって俺が怒られた感じ」
そういえば、金曜日ここで話した時も、桐島さんはそう言っていたかもしれない。
まさか本当に陸に注意するほど気に留めてくれていたとは思っていなかっただけに驚く。
「言い訳になるけど、桐島と約束したのってだいぶ前だったんだよな。あいつの予定が空いてないとかで。一ヵ月くらい先の日を言われたから、〝俺、絶対忘れるから数日前に一応連絡入れてくれると助かる〟って話してて、桐島も了承してたんだけど、あいつは約束自体は覚えてても連絡する方を忘れたみたいでさ」
けらけらと笑う陸に呆れる。
絶対忘れるのが自分でわかっているなら、携帯のスケジュールになりなんなり入れてアラーム設定しておくべきだ。
でも、陸の忘れっぽさは陸と親しいひとなら全員が知っていて、一度懲りたひとは事前に連絡を入れるのがいつの間にか暗黙の了解となっている。
私も、約束してから少し日が開いて不安な時は前日なりに一応確認するようにしているから……そういう甘やかしがいけないのかもしれない。
約束を破られて時間を無駄にしたくないっていう自衛のためだったけれど、私や家族、友達がみんなして陸をこう育ててしまった気もしないでもない。
桐島さんは久しぶりだったから、その暗黙のルールを忘れて痛い目に遭ったってことなんだろう。