かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「数こなさないで、じっとしてるから理想ばっかどんどん高くなるんだよ。でもさ、俺思ったんだけど、桐島ってかなりよくない?」
過去の話を掘り下げられても困る。けれど、移った話題も答えに迷うもので、眉を寄せた。
「仕事もできるし人当たりもいいし、立派だとは思うけど……どういう意味で言ってる?」
「もちろん、恋愛的な意味で言ってる。桐島もさぁ、あんな顔してんのに女の影がないんだよなぁ。気になるヤツいないのかって聞いてみても〝どうだろ〟とかはぐらかすし。絶対にモテると思うのに……もしかしたらあいつも理想高いんかな」
食べるのを中断して腕を組んで考える陸に「そうかもね」と返す。
「本人の意志関係なくずっと女の子に囲まれてきたんだろうし。色んな女の子見てきたぶん、好みがうるさくなってもおかしくない気がする」
「だとしても、澪はいい線いってると思うんだけどなぁ。顔だって周りにひがまれるくらい綺麗だし性格もまぁ……まぁ」
「なに」
「いや、性格悪いとは言わないけど、いい子!って感じでもないなって。若干ひねくれてるし素直じゃないし気が強いし」
陸の言葉に腹は立つものの、自分でもわかっているだけに反論を飲み込んでいると、少しの間のあとで陸が呟く。
「昔は真っ直ぐだったのにな」
エアコンの音だけが響く室内。
設定温度は二十六度なのに、静かに胸が冷えていく気配がした。
「なぁ、澪」
エアコンで冷えすぎた密室は苦手だ。
「黒田のこと、まだ引きずってるのか?」
夏の夜は、むっとした空気に混ざって色んな記憶が襲ってくるから苦手だ。