かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「付き合ってたわけだし、名前でいいじゃん」
「たった一ヵ月だけでしょ。私のなかではなかったことになってるから」
「でも事実だろ」
「だとしても。引き留めてまでしたい話なんかないでしょって言ってるの。たいした関係じゃなかったんだし時間も経ってる。もう他人としか思ってない」
軽口に付き合うつもりはない。でも、無視していたらずっとついてきそうな黒田にうんざりして冷たく言う。
〝他人〟だなんて、言ってはみたもののさすがに冷たすぎたかな、と自分でも思うほどだっていうのに、黒田は気にもしない様子で笑っていた。
「まぁ、たしかに今は他人同然かもしれないけどさ、それを今から違う関係に変えたいなって思ってさ」
その言葉にピタッと足が止まる。
振り返り、眉をひそめたまま「え、待って。もしかして告白しようとしてる?」と聞けば、ニカッとした笑顔が返ってきた。
「してる。俺たち、もう一度付き合わない? 澪だって俺のことまんざらじゃないだろ」
驚いたのは、突然の告白にもだけど、これだけ冷たくされてよく脈があると思えたな、という部分にもだった。
まんざらじゃない、なんて私のどの態度を見て言えたんだろう。
謎すぎてポカンとしてしまっていた。