かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「あ……お疲れ様です」

振り向いた先にいた桐島さんに、驚きながら言う。
今日は偶然が重なる日らしい。

私の進行方向から歩いてきたってことは、外出していて、駅から会社に戻る途中かもしれない。

「お疲れ様。今帰り?」と笑顔で聞かれ、うなずく。
いつの間にか黒田の手は離れていた。

「桐島さんはこれから会社に戻る感じですか?」
「いや、俺も会社からの帰り。これから陸と約束してるから、どうせなら相沢さんと一緒に帰ろうかと思って待ってたんだ」
「え、でも陸は今日……」

たしか、違う友達と飲んでくるって話をしていたはず。
それに桐島さんが持っているのは会社が顧客情報関係の書類の持ち運び用として支給している営業鞄で、持ち帰りは厳禁だ。

でも、私が言い切る前に桐島さんが「そちらは?」と遮るように聞くので、渋々紹介する。

「えっと……昔、陸と友達だった人です」

桐島さんに紹介するまでもないのでそれだけで済ませると、黒田が苦笑いで割り込んでくる。

「なんだよ、そのそっけない紹介は。名前くらい言ってくれよなー」

桐島さんの方を向いて「黒田です」と自己紹介した黒田に、桐島さんが笑顔を作る。


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