かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「ちょっとしつこいなって思ってたところだったので助かりました。本当は会社に戻るところですよね」
営業鞄を視線で指し示すと、桐島さんが苦笑いを浮かべる。
「そう。だから、一度社に戻ってからにはなるけど、少し待っててくれれば家まで送るよ」
黒田のことを気にして言ってくれているのがわかり、慌てて首を振った。
「あ、いえ。私は大丈夫ですから」
「でも、あんなところを見たら、やっぱり心配になるし。相沢さん綺麗だから、さっきの黒田さんじゃなくても声をかけたい男はいるだろうしね」
ニコリと微笑まれ、綺麗なのは桐島さんの方だと言いたくなったけれど、心の中に留める。
男性に〝綺麗〟はあまり誉め言葉ではない気がしたから。
「今日、どこかで食べていくつもりだったし付き合ってよ」
「え……あ、いえ……」
「陸は外で食べてくるんだろ?」
さっき、私が言ったことを覚えていたのか。
口の端を上げる桐島さんは、断られるなんて少しも考えていなそうで、遠慮するのは諦め笑みをこぼした。
仕事ぶりから完璧だと知ってはいたけれど、本当に抜け目がない。