かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
こういう部分も、行内で一番の人気を誇る理由のひとつなんだろうか……と考えながら「ところで」と話題を変えた。
悠長に眺めている場合じゃない。
だって、この人は……。
「お察しの通り陸は不在ですが。行内で、〝男に興味があるらしい〟って噂の桐島さんが、うちの兄になんの用でしょうか」
疑いの眼差しで聞いた私に、桐島さんの整った顔が嫌そうに歪んだ。
桐島悠一。噂によれば確か二十八歳で、入社六年目。
同じメガバンクに勤めてはいるものの、桐島さんは企業リサーチ部門、私は一般的な金融事務に配属されているため仕事で関わったことはない。
企業リサーチ部門の仕事はよく知らないけれど、クライアントの投資先企業の先行きを分析しアドバイスしたり、赤字が続く企業の内情を聞き取りどうすればプラスに転じるかを一緒に考えサポートしたりしているらしい。
ただ、指示された通りに動けばいいだけの仕事ではなく、センスや先読み力、経験が必要とされる重要な部門だ。
そこで、二十八歳という若さでエリアリーダーを任せられているのがこの桐島さんで、見た目の良さと仕事ができるエリートという点から、行内で騒がれているというわけだった。