かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
『あなただって見てたでしょ? 犯人、高校生だったのよ。私、教師してるの。だから、あんなことくらいであの子の人生が崩れちゃうのは可哀相だと思ったから、次の駅でこっそり捕まえて穏便に注意するつもりでいたのに、それを関係のないあなたがあんな大事にして……ねぇ、どういうつもり?』
上から押さえつけてくるような圧力を感じ、なにも言えなくなった私に女性が続ける。
『あの電車には、同僚だって乗ってたの。高校生に痴漢されても声も出せないような女だと思われたじゃない。恥かかせて、本当に勘弁してほしいわ』
『……すみません』と、やっと出した声が情けないことに震えていた。
『誰が助けてくれなんて言った? あなたは正義のヒーローにでもなったつもりになって気持ちがいいかもしれないけど、それ、独りよがりでしかないってわからない? あなたは私とあの高校生の人生を壊したのよ……はぁ。本当、最悪』
女性のついた重たい重たいため息が、いつまでも耳に残り、私の中にあるなにかを踏み砕いた気がした。
それが、中二の二月のことだ。