かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「人間は、デメリットを優先して考えるようにできてるって話、知ってる?」

突然変わった話題に顔を上げると、桐島さんがこちらを見て微笑んでいた。
今までの話と繋がりがあるのか不思議に思いながらも「……いえ」と緩く首を横に振った。

「例えば、海のなか潜れば届くところに財宝が眠っているという噂があったとする。でも、その近辺には人食い鮫が出るという噂もある。相沢さんだったらどうする?」

財宝と鮫を想像してみる。
よくアニメや漫画なんかに出てくる、いかにもな宝箱の中から溢れんばかりの金貨や王冠が姿を現している。そして、その上を鮫がグルグルと旋回しているとしたら……。

「入りません。怖いですし、そもそも財宝の噂が本当だっていう確証はないし」

「だよね。それが正常だよ」と相槌を打った桐島さんは、ウーロンハイをひと口飲んだあとで言う。

「人間には防衛本能が携わってるから、自分にとって不利益だったり危険だったりする話を一番に信じるようにできてるらしいよ。今のは例え話だけど、もし、人間に防衛本能がなくて人食い鮫の噂を無視して財宝目的に海に飛び込んだら、人類は滅亡しかねないからって理屈らしいけど。まぁ、危機回避のために備わった本能だろうね」
「なるほど……人間ってよくできてますね」

食欲や睡眠欲といったものだけじゃなくて、滅亡しないための本能は私が知らないだけでまだまだありそうだな、と考えていると、桐島さんが続ける。


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