かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「今の話で、財宝の噂をプラス、鮫の噂をマイナスとした場合、マイナスを優先して信じるようにできてる。たとえ、プラスの噂をする人数が、マイナス側の十倍いたとしても、人間の脳はマイナスの噂が残る構造になってる」

そこまで言った桐島さんが私と目を合わせ、にこりと微笑む。

「つまり、相沢さんは一度のマイナスの言葉が頭に残って動けなくなってるんだろうけど、相沢さんに助けられて感謝した人の方が多かったと思うよって話」

そう言われて、初めて今までのたとえ話が私の弱音と繋がっているのだと気付いて驚く。

あの女性からの言葉がすべてじゃない。
それがわかりながらもそこから動けなくなってしまった私を励まそうとしてくれているのが伝わり、胸の奥がキュッと縮こまった。

陸に何度も『気にしすぎだって。元気出せよ。な!』と背中を押されても、一歩も歩きだせないどころか、しゃがんで膝に顔を埋めたままだったのに……桐島さんの思わぬ方向からのアプローチに驚き、自然と顔を上げていたような感じだ。

震える胸に戸惑ってなにも言えない私を見て、桐島さんが顔をほころばせる。

「相沢さんがたった一度の非難に傷ついて塞ぎ込むのは当然だし、責めるつもりはない。以前みたいに他人を助けた方がいいなんて言うつもりもない。そういう行為はやっぱり危険が伴うし、相沢さんに傷ついて欲しくはないから」

そこで一度区切った桐島さんが、私の目を見て微笑む。

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