かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「ただ、感謝している人はその何倍もいるってことは忘れないで欲しい」
そう言った表情はとても柔らかく、行内で見るオフィスモードの完璧な笑顔とは違って見えた。
初めて会話した時、私は桐島さんに『オフィスモードでお願いします』と言ったけれど……こうして行内では見せない微笑みを向けられ、今はたしかに嬉しさを感じていた。
穏やかな表情が包み込んでくれるようで安心する。
「相沢さん、行内では涼しい顔して黙々と仕事してるし、普段もサバサバしてるから勘違いされがちだけど。やっぱりデリケートで優しい女の子なんだな」
片手で頬杖をついた桐島さんが満足そうにそう笑うから、そのまま受け入れるのは嫌で眉を寄せる。
「いえ。図太いし頑丈です」
ずっと陸を庇ってきただけに、こんな風に女の子扱いされるのは恥ずかしくて耐えられない。
物語でいうなら、間違いなく陸がヒロイン側で私がヒーロー側だった。
「腕相撲だって未だに陸よりは強いですし、重たい荷物も私の方が弱音吐かずに持ってられるし、足だって私の方が速い……ので、そんな顔で見てくるのはやめてください」