かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
制服のベストの胸ポケットからメモを出した緒方さんが、そこにさらさらとボールペンを走らせる。
正直、面倒事は引き受けたくないのだけれど、ここで断ってしつこく追い回されるのも嫌なのでメモは受け取ることにした。
私は勤めて三年目だけど、その間、桐島さんを見かけたのなんて両手両足の数で足りるほどだ。
フロアが違う上、仕事での関わりもないため、行内で偶然会う確率は低い。たぶん、空振りに終わるだろうと判断した。
「とりあえず預かりますけど、期限、一ヵ月くらいでいいですか? ずっと覚えてもいられなそうなので」
「そうねー……まぁ、それでいいわ。そこまでの負担もかけられないし」
案外物分かりのいい緒方さんにホッとしながら「本当に、紹介するだけでいいんですよね」と念を押すように確認すると、すぐに笑顔が返された。
「もちろん。紹介さえしてもらえれば、あとは自分でどうとでもできるから大丈夫」
あとは自分でどうにかできるなら、とっかかりなんか自分でどうにかできそうなものだけど。
むしろ、知り合ってから仲良くなるまでが大変な気がするけど違うのかな。
面識はあるけど、特に仲良くないって人は結構多いし……と考えながら、緒方さんから受け取ったメモに視線を落とす。
銀行に勤めていればおのずと数字は上手に書けるようになるものだけれど、緒方さんが書いた数字も例にもれず読みやすく綺麗だった。