かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「ここ休憩スペースだし、名前出すのはまずいよ」
正午前後のラッシュ時は避けているとは言え、無人ではない。
パラパラと散らばって座っている他の行員を見ながら注意しても、紗江子はお構いなしだ。
「融資部で営業経験もあるからなに?って感じだし。っていうか、緒方さんの愛想の良さって基本的に男落とすためでしょ。仲悪い女性行員相手だとガラッと態度が変わるってみんな言ってるもん」
「〝みんな〟……紗江子だって同じようなこと言ってるよ」
「私はいいの!」
怒りながらお弁当を食べる紗江子を見ながら、たしかに緒方さんは男性に人気がありそうな感じだったなと思う。
あんな人に言い寄られたら、桐島さんだって悪い気はしないんじゃないだろうか。
……というか、桐島さんって今まで本当に女性の噂がないけれど、どんなタイプが好きなんだろう。
昨日は私の話ばかりで終わってしまったし、話した時間の割に私は桐島さんのことを知らない気がする。
そう思い箸を止めていると、お弁当を食べ終わった紗江子が「それより」と強い口調で言う。
「なんで紹介するのOKしたの? あんなの断ればよかったのに」
「断った方が面倒かと思って。それに、一ヵ月だけでいいって言うし」
「その前に、私、澪と桐島さんがくっつくの秒読みだと思ってたんだけど。違うの?」
純粋に疑問に思っているような顔で言われ、呆れて笑う。