かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「違うよ。陸からなにを聞いたらそうなるの?」
「陸からは特に聞いてないけど、見てたらなんとなくわかるじゃない。澪はともかく、桐島さんは澪のこと気に入ってると思うんだけど」

紗江子が言ってるのは、多分、桐島さんが私にだけ柔らかい態度を見せてるからだろうけど、それは特別な感情があるからっていうのとは違うと思う。

ただ単に、同じ会社という関係性にプラスして陸の妹というオプションがあるだけだ。
そもそも桐島さんが陸の友達じゃなければ、私にとっても桐島さんは今も〝仕事ができて見た目もいい、行内一モテる人〟というイメージしかなかったし、会話だってしていない。

桐島さんもきっと同じ感覚だ。

周りで聞き耳を立てられていないかを一応気にしながらもそう説明してみても、紗江子は納得いかなそうに「そんな感じじゃなかったけどなぁ」と頬杖をついた。

大きな目が私をじっと見つめたまま「澪だってまんざらじゃなさそうに見えたんだけどな」と言われ、眉を寄せる。

「何が言いたいの」
「澪の本心はどうなのかなーって。澪、随分長い間恋愛してないみたいだけど、さすがに桐島さんレベルだと揺れるよね。っていうかさ、桐島さんのことは置いておいても、私が誰か紹介するって何回も言ってるじゃん。どういうタイプがいいの? 見た目とか性格とか教えておいてくれれば……」

今まで何度も誤魔化してきた話題を持ち出され、今回はどうやって逃げようかと考えていたとき、うしろから「相沢さん」と声をかけられる。

振り向くと、そこにいたのは今の今まで話題に上がっていた桐島さんで……失礼ながら、挨拶をする前に咄嗟に休憩スペース内を確認してしまった。

また変な噂が立っても困る。

とりあえず、緒方さん含め、融資部のメンバーがいないことだけは確認してから「お疲れ様です」と挨拶すると、おかしそうに笑われた。


< 83 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop