かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「警戒してるね。いや、俺が警戒されてるのか」
「そういうわけでもないですけど……あまり噂を立てられても嫌なので。色々と困るじゃないですか」
桐島さんの耳にも噂は届いているのか「ああ、少し困るよね」と返される。
私の〝困る〟と桐島さんの〝困る〟は、たぶん、扇風機のレベルにしたら〝強モード〟と〝そよ風モード〟くらい違っているんだろうというのが表情からわかった。
私と違って、なにをしても注目の的になる桐島さんからしたら噂のひとつやふたつなんでもないんだろう。
本当に心に余裕があるな、と感心する。
「桐島さん、よかったらここどうぞ。私はもう食べ終わって部署に戻るところなので」
そう言ってさっさと立ち上がったのは紗江子だ。
見るからにルンルンしている紗江子にしかめっ面を向けたけれど、〝感謝してよね〟とでも言いたそうな笑みを返された。
「澪、さっきの話、桐島さんにも相談してみた方がいいよ」
そう私に言った風にして、わざと桐島さんに聞かせた紗江子が私の分も一緒にゴミをまとめ始める。
その横顔に〝だから桐島さんとはなんでもないって言ってるのに〟と恨み言を浮かべていると、先日と同様にショップのコーヒーを片手に持っている桐島さんが向かいに座った。
「俺に相談って、なに?」