かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
あんな言われ方をしたら当然気になるし、聞かれたら私も言わないわけにはいかない。
なんでもないと言い張ったところで、遠慮しているだけだと思われかねない。
それでもどうにか誤魔化せないかと頭を悩ませている私なんてお構いなしに、紗江子が答える。
「ほら、澪と桐島さんの噂が流れたじゃないですか。そのせいでってわけでもないんですけど、他の女性行員に呼び出されてマウントとられちゃって」
「マウント?」
「澪は愛想がないから桐島さんには似合わないとか。みんなそう言ってるとか。一方的にボッコボコに言われた感じでした」
事実ではあるものの、なんとなく告げ口に感じて少し嫌な気持ちになる。
そういえば、緒方さんに電話をかけて欲しいと頼まれていたんだった……と思い出したけれど、この状態で呼び出してもいい結果にはならない気がして、とりあえず今はやめておくことにする。
最悪、緒方さんのことを話して番号を渡せばいい。
言うだけ言ってスッキリした様子の紗江子が「じゃあ、ごゆっくりー」と笑顔を残して休憩スペースをあとにする。
静まり返ったテーブル。
数秒の沈黙の後で桐島さんが「今の話、本当?」と聞く。
正面から送られてくる桐島さんの真剣な眼差しが痛くて、目を伏せた。