かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「でも、いただく理由がありませんから。それに、昨日だって払っていただきましたし」

そうなる予感はしていたから、お店に入った時点で『割り勘で』と念を押していたのに、桐島さんはいつの間にか会計を済ませていた。

それだってまだ納得していないのに、昨日の今日でまたご馳走になるわけにはいかない。
そう思い眉を寄せた私に、桐島さんが微笑む。

「俺が買いたかったからって理由は?」
「ダメです」
「じゃあ、そうだな。コンビニでは一緒にいた後輩にもコーヒーを奢ったし、相沢さんからお金をとるならその後輩からもとらなきゃになって困るから……って理由は?」

楽しそうにめちゃくちゃなことを言う桐島さんは、私からお金を受け取る気はないんだろう。
それがわかったので、ひとつ息をついたあとお礼を言う。

「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきます」
「どういたしまして」
「その代わり、桐島さんの好きなものを教えてください」

今まで私が桐島さんにあげたものはビーフシチューしかりミントガムしかり残り物ばかりだ。
それなのに桐島さんからもらったものばかりにきちんと〝私のため〟という気持ちがこもっているのはフェアじゃない。

だからしっかりとお返ししたい。

桐島さんはそんな私の気持ちを読んだように目を細め――。

「相沢さんと一緒に食べるものかな」

そう答えたのだった。

緒方さんは、紹介さえしてもらえば、本当に桐島さんをどうにかできると思っているんだろうか。

こんな、極上の笑みで平気で甘い言葉をささやくような人、私にはとてもじゃないけれど攻略できそうもない。



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