かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「かなりしつこかったって聞いたんだけど」
まだ黒田の話をしているのか……と少しうんざりしながら手を洗う。
「昔からあんなもんだったでしょ。着信拒否の設定も解除してないし、住んでる場所だって知られてない。就職先も知らない。道端でバッタリ会わない限りもう顔合わせることもないから、心配しなくて大丈夫だよ」
陸が黒田に過剰反応するのは、あの一件があってからずっとだ。
頬を腫らした私を見たときの陸のショックを受けた顔は、今でも忘れられない。
別に陸のせいじゃないと何度言っても聞き入れてくれないのも、もうずっと。
〝大丈夫だよ〟と強調した私に、陸はなんとも言えない顔をして目を伏せるから話題を変えることにする。
「それより、桐島さんから聞いたの?」
うがいをしてから洗面所を出てリビングに戻る。買った服を取り出し値札を外していると、陸が隣に座った。
「そう。今日昼間に電話があって、しつこくされてたから今後注意して見てやってくれないかって。……あれ。なんか〝注意して見てやってくれ〟なんて、今考えると俺みたいな家族だとかが頼むような口ぶりだよな。黒田とのことを目の当たりにしたからかな」
「そうかもね。……桐島さん、他にはなにか言ってた?」
「いや、それだけ。ああ、あと部屋に男友達入れるなって。さすがの俺でも先週怒られたばっかりだし忘れてないって笑ったら『念を押しただけだ』って言ってた。俺、相当アホだと思われてるのかもなぁ」
「かもね」と呟くように言いながら、切った値札を集めゴミ箱に捨てる。