かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
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そもそも……だ。
そもそも私には誰かを好きになるという感情がまずよくわからない。
中学までは陸を庇ったりフォローすることに精一杯だったし、その後付き合った黒田とあんなことになってからは、男性と距離を置くようになっていた。
とはいえ、よく陸に言っている〝もう終わったことだから〟は嘘ではなく、黒田との一件がそこまでトラウマになっているわけじゃない。
見るからに私への好意を溢れさせているような男性は怖いけれど、それ以外だったら問題なく話せるし、エレベーターでふたりきりになっても大丈夫だ。
だから、恋愛に興味が湧かないのは私の元からの性格が原因なんだろう。
そんな私がここ数日、〝人を好きになるってどんな感じなんだろう〟と私らしくない悩みを抱えているのは他の誰でもない、陸と紗江子のせいだった。
人の顔を見れば『桐島さんと進展あった?』だとか『桐島もまんざらじゃないと思うんだけどなぁ』だとか言ってくるせいだ。
そんな状況におかれたら、誰でも嫌でも意識するようになる。
頭の中を〝恋〟の文字がぐるぐるして眩暈がしそうだった。
おかげで夜もよく眠れなかったしやたら早く目が覚めてしまったせいで、いつもよりも二本も早い電車で到着してしまった。
陸と紗江子はもしかしたら私を催眠状態にするつもりなんじゃ……と疑心暗鬼に陥りながら会社の最寄り駅で電車を降りる。
通常なら七時五十五分に通る駅前の道を、今日は七時三十四分に歩く。たった二十分早いだけなのに、人通りがぐんと減り歩きやすさを感じた。