東京ヴァルハラ異聞録
「な、なんでそれを……」


思わず声が漏れる。


「やっぱりかよ。確証はなかったけどよ。見てたやつがいるんだよ。なあ!」


俺の後方に視線を向け、篠田さんが呼びかける。


慌てて振り返った俺は……椅子に座っている男性の姿を見た。


「は、はいっ!間違いないです!そいつは、死神と一緒にいました!僕は殺されたからその後の事はわかりませんけど……」


そこにいたのは……直樹さん。


「な、直樹さん!?」


偶然あの場所に居合わせただけなのに、どうしてそんな事を!


でも、それは事実。


直樹さんだけを責める事は出来ないんだよな。


「……なんだよ。知り合いなのかよ。知り合いに情報を売られてりゃ世話ねぇな、お前もよ。おい、そこのお前、こっちにこいよ」


篠田さんが直樹さんに手招きをする。


直樹さんは嬉しそうに立ち上がり、篠田さんに駆け寄った。


「篠田さん!こいつは裏切り者ですよ!もう、ボッコボコにしてやってくださいよ!」


さっきまでビビっていたのに、篠田さんの陰に隠れて気が大きくなっているのか。


何にしても、直樹さんがこんな人間だなんて思わなかった。


優しくしてくれた、いい人だと思っていたのに。
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