東京ヴァルハラ異聞録
万世橋を渡り、神田の方にひたすら走る。


元の世界なら、とっくに息切れして走れなくなっているのに、ここでは身体が軽い。


息も乱れていないし、走る速度も速くなっている。


神田駅付近まで逃げると、追手はいなくなっていた。


だけど、PBTの通信機能を使って、この事を周知されているかもしれないからな。


あまり派手な動きは控えた方が良い。


電車が通る、線路の高架下。


そこを通り抜け、ビルの隙間に入り、少し広い空間に出たから、そこで腰を下ろした。


強くなる為に、北軍に侵攻したのに。


死んで生き返ってみれば、同じ軍の人間からも追われる立場になっている。


「くそっ!なんでこんな事になっているんだよ!俺は何も……悪い事はしてないだろ」


拳で地面を殴って見せるけど、思ったよりも痛くて、拳に息を吹きかける。


悟さんが行方不明というのも気になるけど、今俺が北軍の光の壁に向かえば、必ず捕まってしまう。


篠田さんがどうしてあんなに頑なに真由さんの居場所を隠したがるのかもわからない。


わからない事だらけで……頭が痛くなる。


俺はこの後何をすれば良いのか。


額に手を当て、ため息をついた時だった。




「あ、やっぱり昴くんだ。西軍の人達に追われてるから、誰かと思っちゃった」





そんな声が、頭上から聞こえて、俺は顔を上げた。
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