東京ヴァルハラ異聞録
高架の上に、マントの人物。


その姿と声で、それが誰だかはすぐにわかった。


「沙羅!」


俺がそう言うと、沙羅は軽やかにそこから飛び降り、クルリと回転をして俺の前に着地した。


「そう、沙羅だよ。どうかしたの?味方に追われてるなんて」


フードを脱ぎ、俺に笑顔を見せてそう尋ねた。


何がどうなってるかなんて俺にもわからないけど、沙羅に遭遇した事で、直樹さんの勘違いが始まったんだろうな。


「はは……俺が裏切り者なんだって。楠本真由の居場所を探るのはタブーらしくてさ。それに、沙羅との関係も疑われて……」


「そっか。それは困ったなあ……うん。困った」


沙羅が言うと、あまり困ったように見えないんだけど。


困ったなんてもんじゃないよ。


自軍にいるのに、味方に追われてる俺の身にもなってくれよ。


「じゃあ、真由の居場所はわからないんだよね?」


「う、うん。わからないままだけど……それより、まさか人一人の居場所を聞いて、こんな事になるなんて思わなかったぞ」


沙羅が俺に頼まなくても、いずれ俺は真由さんの行方を探していただろうから、こうなる事は決まっていたかもしれない。


だけど、ここから俺はどうすれば良いのか。


それがわからなかった。
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