東京ヴァルハラ異聞録
膝が震えていては、逃げる事も出来ない。


助けてもらうにも、悟と山瀬は倒れているし……。


「それじゃあ、いただきます!」


有沢が、俺と長谷部さんに向かって駆け出した。


巨漢とは思えないほどの速度で迫る!


振りかぶったハンマーが、振り下ろされる!


武器を引き抜く暇すら与えてくれない。


「す、昴くん!」


長谷部さんが恐怖に震えた声を上げたその時だった。


「ぐえっ!」


と、有沢が声を出して、ハンマーを振りかぶったまま動きを止めたのだ。


その腹部からは……血に塗れた槍の穂先が飛び出していて。


背後から、悟が槍で突き刺したのだというのがわかった。


「引け!今すぐに!」


頭部から血を流しながら、悟が吠えた。


早く、早くと心の中で呟きながら、光の渦に手を入れた俺は、その中で何かを掴んで、慌てて引き抜いた。


何が掴めたのかはわからない。


だけど、言われた通りにすぐにそれを抜くと……。


俺の手に、日本刀が握られているのに気付いて。


目の前の有沢が、目を丸くして俺の頭上を見ていた。


次の瞬間、有沢の胸から大量の血が吹き出した。


生ぬるい血が、俺と長谷部さんに降り注ぐ。
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