東京ヴァルハラ異聞録
「ヴァルハラって……あの北欧神話のやつですよね?やっぱりここはヴァルハラなんだ……」


腰を抜かしたのか、いつの間にか俺の後ろで地面に座り込んでいる長谷部さん。


「詳しい事は多分、誰もわからないけどね。きっとここは魂が集まる場所。俺達は今みたいに、殺し合いをさせられてるんだよ。東西南北、それぞれの軍に分けられてさ」


魂が……集まる場所?


さっき長谷部さんが言っていた事と一致する。


ここは東京だけど東京じゃないって?


そんなの……にわかには信じられない。


だけど、有沢は光の粒になって飛び散ったし、普通ならこんな死に方はしない。


「とりあえず、場所を変えようか。ここは光の壁に近い。南軍の人間がまたここを通るかもしれないからさ」


そう言い、槍を支えにして立ち上がった悟さん。


胸を押さえながら、苦痛に顔を歪ませているみたいだ。


「あれ?山瀬って人は……どこに行ったの?」


長谷部さんが、後方に飛んだはずの山瀬の姿を探すけど、山瀬はどこにもいなかった。


逃げたのか、有沢のように光の粒となって消えたのかはわからない。


だけど、俺にはそんな事よりも、人を殺したという罪悪感に押し潰されそうになっていた。


そんな時だった。


「いてて……お、おい。悟、大丈夫か?」


「全く……有沢がここに来るとは不運だったよな」


路地から10人くらいの男女が、傷を負った身体で出てきたのだ。


慌てて俺は、震える手で握った日本刀を向けて後退りする。


「大丈夫……こいつらは、俺の仲間だ」


悟さんにそう言われ、俺は安堵の吐息を漏らすと共に日本刀を下ろした。
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