東京ヴァルハラ異聞録
泣きじゃくる沙羅を抱き締める梨奈さん。


篠田さんが、真由さんに俺達を会わせてくれたのは、久慈さんに指摘された部分もあるだろう。


だけどこれは……あまりにも酷いじゃないか。


沙羅も梨奈さんも、真由さんを探していたのに。


「15時から僅かな時間、真由は元に戻る。目が覚めても寂しくないように、俺がいてやらなきゃならないんだよ。でも、あんな嬉しそうな真由の顔を見たのは初めてだ。もう良いだろ?真由の事はもう忘れろ」


篠田さんがそう言った時、沙羅が怒ったような表情を向けて口を開いたのだ。


「忘れるなんて……出来るわけないでしょ!あなたはそうやって、ただ真由を守れば良いって思ってるの!?沙羅は嫌!絶対に真由と元の世界に戻るんだから!」


「……キングなんだぞ?動けないんだぞ!どうやって真由を元の世界に戻せって言うんだ!そんな事が出来るなら俺はとっくにやってる!夢みたいな事言ってんじゃねぇよ!!」


「何もしてないじゃない!真由を守るって言って、あなたは何もしてない!!沙羅は……真由を絶対に元の世界に帰してあげるんだから!」


今までにない、沙羅の表情と声に、俺は驚いた。


「お前、何をするつもりだ?真由を帰せる方法があるっていうなら、 言ってみろよ」


篠田さんが、殺意を押し殺してそう尋ねると……。




「……バベルの塔に登る。頂上に行けば、全ての願いがそこにあるんでしょ」




今までにない、強い口調で沙羅がそう言った。
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