東京ヴァルハラ異聞録
それを聞いたから「よし!強くなる為に人を殺すぞ!」なんて前向きに考える事は出来ない。


人を殺さずに、どうにかして元の世界に戻れないかと考えてしまう。


長谷部さんも俺と同じ事を考えているのか、表情は暗い。


「そんなに暗い顔しないで。こんな街だって何とか生きて行ける。生きてさえいれば、いつかは元の世界に戻れるって俺は信じてる。だから……」


と、そこまで悟さんが言った時だった。



「ふぎっ!」



奇妙な声に気付き、前を向くと、長谷部さんが足を止め、ガタガタと震え出したのだ。


「長谷部さん?一体どうしたんです……」


そう尋ね、顔を上げると……。


悟さんの仲間達の奥に、3mはあろうかという巨大な人が立っていたのだ。


いや、その顔は犬のようで、明らかに人ではない!


そしてその口には山瀬がくわえられていて、足元には悟さんの仲間が踏み付けられている。


「あ、あうう……た、助けて……」


ゆっくりと振り返り、それを見た悟さんは、途端に顔色を変え。


「ポ、ポーン!?逃げろ!!こいつに捕まったら死ぬぞ!!」


そう叫んで駆け出した。


「マ、マジかよ!なんでこいつがこんな……ぎゃっ!」


「た、助けて!死にたく……あぎっ!」


次々と人が殺されていく!


言われなくなってわかる!


姿を見るだけで死を予感させる。


悟さんでさえ戦うのを拒否する相手だ。


逃げるしかないだろ!
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