東京ヴァルハラ異聞録
後3分。


もうすぐ総力戦が始まる。


不安と恐怖が、俺の身体を包み込む。


心臓はバグバクと激しく動き、冷や汗と身体の震えが尋常じゃない。


「す、昴くん。大丈夫?」


「大丈夫なわけないですよ。怖くてたまらないです」


こんな状況で怖くない人間なんていないだろうけれど。


美佳さんだって怖いだろうに、俺を気にかけてくれている。


大きく深呼吸。


心臓を少しでも落ち着けようとしていた時だった。





「ん?おい、キミ!顔色が悪いけど……大丈夫か?」





手にナイフを持っている男性が、車の陰に隠れている俺達に気付いて声を掛けてくれたのだ。


「どうしたの?直樹」


「ああ、ここに男の子がいるんだけど、顔色が悪いみたいなんだ」


直樹と呼ばれた男性が俺を指さして、誰かと話をしている。


そして、その声の主が俺の前に現れた時……俺は目を疑った。


「初めてなんじゃないの?総力戦がさ。私達も最初はこんな感じだったじゃない」


俺の目の前にいた女性は……あの日、秋葉原駅のトイレで見た女性に似ていて。


不安も恐怖もなくなって、思わず立ち上がり女性に近付いていた。
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