東京ヴァルハラ異聞録
その内の何人かは、俺達が隠れている前の道を横切るけど……まだ直樹さんは飛び出さない。


今飛び出せば、大量に押し寄せる南軍の人に見付かって殺されてしまう。


弱気な作戦だけど、安全に戦う手段なのだろう。


日本刀を握る手に力が入る。


荒くなる呼吸を抑えながら……その時を待つ。


俺は本当にやれるのか。


やらなければならないのかと、まだ考えてはいたけれど。


悟は人形町通りで戦っていると言っていたけど、大丈夫なのだろうか。


人の通りが少なくなって来た。


少なくなるにつれ、俺達の前の道を通る人も増え始める。


その様子からすると、潜んでいる西軍の人間を始末しようとしているのだろうか。


昨日の有沢が、どうして西軍に入ってすぐの所でうろついていたのか、わかったような気がするよ。


「さぁてと、掃除を始めようかね。オラオラ!とっとと出てこいゴミ共が!俺が相手になってやるよ!」


一人の男が、ヌンチャクを振り回して、俺達が隠れている車を殴り付けた。


ガンッという音が響いたと同時に……。


「きゃっ!」


美佳さんが小さく悲鳴を上げてしまったのだ。


慌てて口を塞ぐ美佳さん。


ゆっくりと俺達の方を見る男。


不意打ちを狙っていたのに……見付かってしまった!
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