東京ヴァルハラ異聞録
「な、直樹さんは!?」


「逃げたんでしょ!相変わらず逃げ癖は治ってないんだから!」


危ないからって、梨奈さんを置いて逃げたのか!?


一瞬、軽蔑しそうになったけど、同じ状況なら俺もそうするかもしれないと考えたら、何も言えない。


「そこの角を曲がる!曲がったら真っ直ぐ走って!」


「は、はい!」


梨奈さんに言われた通り、ホテルがある角を曲がって真っ直ぐに走る。


美佳さんは大丈夫かと、チラリと背後を見ると、さすがに革靴では走りにくいのか辛そうだ。


だけど、それ以上に気になったのは、後ろを走っているはずの梨奈さんがいなかった事。


「えっ!?梨奈さん!?」


まさか、俺達を囮にして逃げたのか!?


思わず足を止めて、梨奈さんの姿を探すけど、その間にも二人の男が飛び出して来て、俺達を見て駆け寄って来たのだ。


「早い者勝ちだぞ!二匹殺っても恨むなよ!」


「おっさんなんかに負けるかよ!」


白髪混じりの小太り中年の手にはナタ、もう一人の若者の手には鎌。


立ち止まった俺を目掛けて、二人は武器を振りかざした。


後方には美佳さん。


避ければ美佳さんが危ない。


そう考えた俺は、震えながらも日本刀を二人に向けて構えていた。
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