東京ヴァルハラ異聞録
雨が降り始めて20分は経ったか。


俺はまだ、その場に立ち尽くしていた。


「身体、冷えちゃうよ?この世界で風邪を引くかはわからないけどさ」


近くのコンビニに置いてあった傘をさして、美姫が俺の隣にいてくれる。


パチパチと傘で弾ける雨音を聞きながら、三宅の遺体の横で。


御田さんが、死者を埋葬していた意味がなんとなくわかる。


そうする事で少しでも罪悪感を薄れさせたいというか……死者への贖罪もあったのだろう。


西軍の厄災と呼ばれた人だ、俺とは比べ物にならないくらい人を殺しているに違いない。


「……いつまでそうしてるの?」


「美姫はどこかで雨宿りしてなよ」


「昴くんが行かないなら、美姫もここにいる」


そんな短い会話の後、さらに10分が経った時だった。


馬喰町横山駅の方から、20人ほどの人達が走って来たのは。


あれは……千桜さんか?


視界が悪いこの雨の中でも、オレンジ色が目立ってそうだとわかる。


「こ、これは……わたるくん!!どうして三宅が……まさか、わたるくんがやったんですか!?」


俺に駆け寄るなり、肩を掴んで前後に揺する。


マスターを足止めして、千桜さんと籾井さんを逃がした事になっていたのに、三宅が倒れているのは予想外だったのだろう。
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