東京ヴァルハラ異聞録
「ちょっと……昴!何してんのよ!ほら、早く起きて」


椅子から立ち上がり、麻衣が俺に近付いて手を差し伸べる。


「ま、窓!このテーブルの上に人が倒れて……」


そう……言ったものの、もしも何も見えなかったらどうする。


俺はまた馬鹿にされるだけじゃないのか?


恐る恐る起き上がって、窓ガラスに目をやると……そこにはもう、男の姿はなくなっていたのだ。


「昴……お前……」


拓真の言いたい事はわかるよ。


一人で大騒ぎして、見えもしないものを見えると言って……傍から見たら、俺は完全に異常者だよな。


店員も、他の客も、俺を冷たい目で見ているのがわかるよ。


立ち上がり、椅子を起こして座って。


額に手を当てて、俺はどうしてこうなったんだと嘆く事しか出来なかった。


「あー、なんだ。気を落とすなよ昴。俺は信じてるからさ」


何を信じてるんだよ……ずっと馬鹿にしてたくせに。


「そうそう、何度もそれを見たって言うなら、素質があったんだよ。魂が引かれたって言うの?」


……何言ってんだ麻衣は。


さも当然のように話してるけど、全然意味がわからない。


って、俺の話もこんな風に思われていたんだろうな。
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