東京ヴァルハラ異聞録
「ふぅぅぅぅ……ぬぅっ、昴か」


月影が見たというオーディンの容姿通り、左目が閉じている。


それに、近くに寄ってみてわかるけど……恐ろしいまでの力を感じる。


「兵を集めろ。バベルの塔に向かえ。訪れるぞ、ラグナロクが」


「御田さん!何が起こっているのか説明してください!知っているんでしょう!?」


「話している暇があるなら早く兵を集めんか!!フェンリルはワシでも止められるかわからん!バベルの塔に挑むのはワシではない!お前じゃ、結城昴!わかったらさっさと行け!兵を集め、バベルの塔に入るんじゃ!!」


その言葉で、理解はしたつもりだ。


あの化け物、フェンリルが暴れ出すまでにバベルの塔に突入しなければならない。


もしも暴れ出せば、街は壊滅。


バベルの塔に挑む戦力すらなくなり、死に怯えるだけとなる。


外で戦う人達がフェンリルを抑えている間に侵入しろという事だろう。


チャンスはもう、そのタイミングしかないのだ。


「……わかりました。戦える人を集めて、すぐに両国に向かいます」


「ああ、やつが暴れ出すまで、長くはないぞ」


俺を一瞥もせず、歩みを止めない御田さんに背を向け、俺は秋葉原へ走った。
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