東京ヴァルハラ異聞録
「もう両国へ向かうのか?結城昴」


沙羅と月影と共に、外に向かおうとした俺に、久慈さんが声を掛ける。


「ええ、こうしている間にも、他軍の人達は集まっているでしょうし、西軍が遅れるわけにはいかないですからね」


こんなに急に突入する事になるとは思わなかったから、誰がバベルの塔に入るかも決めていない。


強い人達だけを集めてしまうとフェンリルを止められないし、かと言って強くなければバベルの塔の内部に何があるかわからない。


それを熟考する時間がほしかったけど、こうなった以上行ける人で行かなければならないな。


「待て、俺も行く。こうなってはキングを守るどころではないからな」


そう言うと、久慈さんは真由さんの方に向かって歩き出した。


ステージ上の金の真由さん。


この世の全てに絶望したかのような姿で固まっている。


「行ってくる。キミが次に目を覚ました時は……元の世界に帰っているだろう。だから、少しだけ一人にする事を許してくれ」


篠田さんから託された任務。


今、久慈さんはそれから解き放たれて、一人の戦士として戦場に戻る。


強く、真っ直ぐなその目は、俺達に安心感を与えてくれた。
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