東京ルミナスピラー
俺がそう言うと、灯は呆れたように首を横に振って。


それから何も話さずに、母さんが起きるのを待った。


灯はスマホをずっと弄っていて、時折不気味な笑い声を出していたけど。


16時20分。


母さんが目を覚まし、リビングにやって来た。


「おはよう母さん。俺はいつでも行けるよ」


そう言うと母さんは申し訳なさそうに俯いて。


「ありがとう、葵」


小さくそう呟くと、手で顔を覆った。


「あー……私、ちょっと外に出てくるね。こういう湿っぽいのは苦手だからさ」


灯は気を遣ったのか、そう言って本当に外に出て行った。


まあ、これが今生の別れというわけじゃない。


さっさと父さんと姉さんを見付けて、帰ってくれば良いだけだ。


「父さんもさ、最初から俺を連れて行けば良かったんだよ。だって、物凄い方向音痴だろ? 父さんが一人で秋葉原に辿り着けたかどうかも怪しいじゃないか」


母さんが負い目を感じないようにと、少しでも明るく話をする。


「フフッ。そうね。でも、どうして私には招待状が届かなかったのかしら。どうして葵に……」


「母さんは平穏な人生を送れってことだよ。大丈夫。父さんと姉さんを連れて帰るから。また家族皆で暮らせるって」


俺が笑顔で母さんの肩を叩くと、母さんは俺の首に腕を回して、ギュッと抱き締めてくれた。
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