東京ルミナスピラー
「葵……こんなに冷たい。雨に……濡れたからね」


タケさんにもらった雨合羽を着た姉さんは、俺の手を温めるように握り締めてくれた。


「大丈夫だから……もうすぐ家に帰れるから。だから待ってて……姉さん」


繋いだ手を額に当てて、ゆっくりと手を離すと、俺は最後の力を振り絞って日本刀を取り出した。


回復なんて考えてなかった。


ただ……姉さんの前で無様な俺ではいたくなかったから。


「行きます、結城さん」


深呼吸をひとつ。


恐らくこの攻撃は当たらずに、結城さんの攻撃で殺されると理解していた。


それでも心は穏やかで、何も怖くはなかった。








「やめよう」








覚悟を決めた俺に、日本刀を離して首を横に振った結城さんが、投げやりにも聞こえるそんな言葉を発したのだ。


「月影、もうやめよう! 最初から意味がなかったんだよこんなこと!」


父さんと戦っている月影も、結城さんがそう叫ぶと動きを止めた。


何が何だかわからないのは、俺だけではないはずだ。


父さんだって拓真だって、みんなみんな、わけがわかっていないはずだ。


「迷いを抱えたままでは戦えないということですか。残酷な運命だとわかっているのに、あなたはそれを選ぶのですね。だったら私は何も言いません」
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