東京ルミナスピラー
「母さん……母さん。俺、俺……灯を殺したのは俺で……殺すしかなくて……」


「辛かったね。でも泣かないで。まだ元に戻すことは出来るから。わかっているでしょ? 可能性から目を背けないで」


可能性……元に戻す……そうか、願いが叶うというバベルの塔。


悲しみのあまり、すがりついていたはずのその可能性も忘れていた。


だけど……。


「灯を……殺したのは俺なんだ。俺が殺したんだよ」


その事実だけは消えなくて、声に出す度心が砕け散りそうになってしまう。


「ここから先は修羅の道。たとえ悪鬼となっても、叶えたい願いのために地獄を行くか、それとも人の心のまま、誰かがこの街から解放してくれるのを祈るか……理不尽な選択というのはいつも迫られる。さあ、お前はどうする?」


立ち上がった高山真治の言葉を、母さんに抱き締められながら聞く。


そんなのは言われるまでもない。


灯を……姉さんと一緒に家に帰りたい。


そう思ってはいるものの、悲しみに邪魔をされてその答えに届かない。


「無理に答えを出さなくてもいいの。葵の心が声を上げたいと思うまで……ずっとこうしていてあげるから」


母さんの優しい声と体温に包まれて、俺はゆっくりと目を閉じた。


遠い昔に失った、安心感を取り戻したかのように。
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