東京ルミナスピラー
沼沢は恐怖した。


鬼になって以来、イラつくことは多くなり、怒りに身を任せることはあっても、恐怖するということはなかったから、この感情は沼沢に戸惑いを与えた。


「夕蘭、下がっていてくれ。そして、俺を守ってくれてありがとう」


少年がそう呟くと、夕蘭は武器から手を離してゆっくりと後退した。


なぜ沼沢が恐怖したのか。


武器を左手で持っているとはいえ、素手で手首を捻り上げられて微動だにしなかったからだ。


それどころか、さらに捻り上げられて、沼沢の意思に反して床に膝をついてしまったのだ。


「き、貴様っ! なんだこの力は! は、離せっ!」


強引に振りほどき、拳を鎖で固めて、沼沢が少年に殴り掛かる。


だが、その時沼沢の目に映ったのは、信じ難い光景だった。


「必殺・紅蓮落華閃」


その声が聞こえたと同時に、少年の姿が無数にいるように見えたのだ。


その数が増えれば増えるほど、身体に激痛が走る。


少年が目にも留まらぬ速さで沼沢の身体を蹴り、手にした日本刀で斬り付けながら、壁や天井、を蹴ってさらに沼沢の身体を蹴る。


その速度が上がって行くにつれて、沼沢の腕が、脚が切断されて、最後には四肢を失った沼沢が項垂れている状態になり……。


少年の日本刀が、沼沢の首に振り下ろされた。
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