東京ルミナスピラー
葵をベッドに寝かせ、大塚から話を聞くために崩れた部屋で椅子に座って、落ち着いたところで大塚が話し始めた。


「沼沢さんは……癌だったんです。ステージ4で、世の中を恨むかのように武器を振るっていました。そこに現れたのが……津堂さんだったんです」


ポツリポツリと話し始めた大塚に、千桜も昴も目を閉じて頷く。


そこまで聞けば、何となく鬼となった理由は二人には理解が出来たからだろう。


「鬼となることで、癌細胞に打ち勝つ肉体を手に入れる……彼はそれを果たし、鬼となることで死の恐怖を克服したのです」


「え、ちょっと待ってよ。それじゃあバベルの塔に登ってさ、元の世界に戻してほしいって願いが叶ったとしたら……」


ベッドに腰を下ろしていた夕蘭が、慌てた様子で大塚に尋ねると、大塚は困ったような表情を浮かべて頷いた。


「ええ、沼沢さんの身体は恐らく、再び癌細胞に蝕まれることになるでしょう。いや、沼沢さんだけではないのですよ。人間誰しも不安を抱えております。鬼への変異は、その不安を取り除く麻薬のようなもの。東軍の人達は、すでに戦いに負けたのです。鬼王である黒井さんとの戦いに」


その言葉が何を意味するのかというのを理解した昴は、ゆっくりと目を開けてため息をついた。
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