30歳のクリスマスソング
「アタシ動画これから観るんだから邪魔しないでよ」
男を無視して続きを観ていた。
それでも心臓は破裂しそうで
ストーリーなんか入ってきやしない。
コーヒーを飲もうと右隅に置いていたカップを持ち上げた時だった。ブランと垂れ下がり宙を彷徨っていた左のイヤホンをとり覗き込む奴。
「これ最後の奴じゃん。『2002遺言』でしょ?」
「知ってんの?」
「これ好きだった。」
「アンタまだ1歳とかじゃないん?」
「死んだ母ちゃんがよく観てたからな。」
「材木屋のおっちゃんだっけ、奥さんが癌で死ぬ前に見せてやりたいんだつって号泣しながら娘さんの家を建てるシーンが一番好きだったかな。」