地味で根暗で電信柱な私だけど、甘いキスをしてくれますか?
「さてさて、ついでなんで棚を見てきますかね」と山田さんが私たちを残して行ってしまう。急に二人にさせられて私は若干の戸惑いを覚えた。

 嫌なのではない。

 むしろ彼に会えて嬉しい。アパートの部屋に戻れば彼が待っているのだとしても嬉しいものは嬉しいのだ。

 もっとも、同棲を始めてからほぼ毎日彼が迎えに来てくれているのだけれど。

「忙しい、ですよね?」

 佐藤さんがまた苦く笑んだ。

「全く、山田さんには困ったもんです」
「てっきりバイク便で直納すると思ってたのに」
「直接謝りたかったらしいですよ」

 佐藤さんがコンピュータ関連書籍の棚へと目を向け、私も倣う。

 山田さんが既刊本の注文書に棚の残部数を記していた。他のお客さんの迷惑にならぬようさり気なく場所を譲りながらチェックしていく姿はチャラチャラしていそうな彼のイメージを良い意味で崩してくれる。

 悪い人じゃないんだよね。

 一見誤解を受けやすそうな山田さんの真面目な姿に私はうんうんとうなずいた。
 
 
 
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