地味で根暗で電信柱な私だけど、甘いキスをしてくれますか?
 夜。

 ようやく仕事を終えて店の通用口を出ると佐藤さんが待っていた。

「ゆかりさん、お疲れ様」

 彼は仕事以外では「ゆかりさん」と呼ぶようになっていた。

「うん、お疲れ様。今日もありがとうね」

 私がお迎えのお礼を口にすると佐藤さんは何でもないといったふうに首を横に振った。

「好きでやってることですし」
「うん」

 私たちは寄り添うように並んで歩き始める。

 クリスマス・イブの街は普段よりずっと賑やかで通りを行く人もどこか浮き足立って見えた。どの店もドアにクリスマスリースを飾り、モールやツリー、電飾などで目を楽しませてくれる。

 ケーキ屋やファストフードの店頭にはサンタ服を着た売り子が立ち、声を張って呼び込みをしていた。

 大学生らしき男女数人が大声でジングルベルを歌っている。様子からアルコールが入っているのは明らかだ。陽気な歌声は地味で根暗な私の気持ちさえうきうきさせた。

 ぴゅうと北風が吹き抜け、私はぶるっと身体を震えさせる。

「ゆかりさん」

 佐藤さんが一声かけ、そっと私の手を握る。

 そのまま彼は自分のコートのポケットに入れた。

 私より背は低いけれど彼の手はやっぱり男の人の手で、私の手を優しく包む彼の体温に自然と寒さが気にならなくなる。

 私は僅かに彼への身体の密着を強めた。呼応するように彼がにこりとする。その微笑みにとくんと心音が高鳴った。
 
 
 
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